06年訪伯・訪米報告

この度、4/3にブラジル・ベロオリゾンテにて開催された、米州開発銀行(Inter-American Development Bank、略してIDB)の第47回年次総会に出席いたしました。昨年は、この総会が日本・沖縄にて開催されましたが、今年はブラジルでの開催となったため、私が日本政府の代表としてブラジルを訪問した次第です。加えて今回は、十数年に一度回ってくると言われる議長国を日本が務めることとなり、私が議長として会議を取り仕切りました。

ブラジルには、世界各国から多くの移住者が渡っていますが、日本も例外ではありません。日系移民は約140万人、そのうち沖縄からの移住者は約15万人を越えており、2008年には「ブラジル移住100周年」を祝うことになっているそうです。このように、日本と、また沖縄と関係の深いこのブラジルの地において本会が開催されることは、何かの縁を感じ非常に喜ばしく感じました。

IDB総会は47カ国の参加を得て開催されました。昨年、ブッシュ米大統領の後押しもあり、エンリケ・V・イグレシアス前総裁の後をアルベルト・モレノ氏(コロンビアの外交官)が継いで新総裁になり、今回はモレノ新総裁を迎えて初めての総会となりました。私自身、モレノ総裁が就任早々に訪日された昨年暮れにお会いしたことがありましたが、大変意欲的に取り組まれている姿勢に強い印象を受けており、IDBを強力に率いていかれる様子が伺えました。勿論、日本に期待されることも多々あるように感じました。

IDBとは、中南米諸国の経済開発を援助するために設立された国際融資機関で、47カ国の加盟国による資本金等を元に運用しています。加盟国の中では、勿論米国が最も力を入れているわけであり、全資金の約30%を出資しています。米州以外では日本が最大の出資国であり、全資金の5%、約1800億円の資金協力を行っています。支援の内容によるかもしれませんが、このような国際的機関を通じた資金協力が良いのか、或いは日本から関係諸外国へ直接的に協力したほうが良いのかについては、今後も検討すべき点があるのかもしれません。バイによる直接援助の方が、日本の貢献という意味でより有効に働くのではないかと思います。

では、IDBが取り組むべき課題にはどのようなものがあるのでしょうか――今行うべきことは、主に3点あります。

第一に「中南米地域のインフラ整備」です。1990年以降、中南米やカリブ海地域のインフラ投資は、厳しい財政事情のために大きく削減され、民間資本による投資も極めて不十分という両面の要因により、著しく整備が遅れた状況にあります。この地域におけるGDPに占めるインフラ投資の割合(公的・民間共含む)は、1980年代前半には3.7%だったものが、2000年前後には2.2%まで低下しました。これにより、地域内の生産性にも悪影響を及ぼす結果となり、生産物を低廉な価格で輸出できない、市場に供給できないという問題が起こっています。

そこで、わが国の協力の下、国際復興開発銀行(IBRD、通称「世界銀行」)、アジア開発銀行(ADB)、国際協力銀行(JBIC:Japan Bank International Cooperation)が共同で、東アジアのインフラ整備に関する研究を行いました。その結果、インフラ整備に当たっては財源の確保のみならず、長期的な戦略が必要であり、官・民・国際社会・市民社会など、関係する主体間の調整が重要だと考えます。この結果が、中南米・カリブ海地域のインフラ投資強化に向けたIDBの助けになればと期待しています。

第二に「民間部門開発への取り組み」です。民間部門開発は、持続的な経済成長にとって不可欠ですが、これまでIDBはグループ内の各民間部門の支援を通じて、域内の民間部門開発に大きな貢献をしてきました。特にIDBの民間部門局は、近年、有料道路建設のための現地通貨建て債券発行に対する保証や、地方の貧困層への電力供給拡大プログラム支援など、単なる資金援助だけでなく、民間資金の活用や民間資金が入りにくい分野の市場開拓に繋がるような、革新的で開発効果の高いプロジェクトを多く手がけています。

今回、IDBの民間部門が支援できる対象分野を更に拡大すると共に、政府系企業に対する支援も可能とする提案がなされていることは、非常に良いことと思っています。IDBの民間部門の担当局、米州投資公社(IIC)、沖縄総会で増資が合意された多数国間投資基金(MIF)、及び事業環境整備を支援する地域局が相互に連携することにより、IDBグループとして民間部門開発において高い効果を上げていくことが可能になるわけです。

第三に「自然災害の予防」です。昨年、アメリカを襲ったハリケーン・スタンをはじめ、自然災害による被害は中南米・カリブ海地域の成長と貧困との闘いにとって、大きな障害となっています。こうした自然災害予防を無視した開発が、災害への脆弱性を生むことに繋がるわけです。これには、長年にわたって自然災害に対処してきた我々日本の歴史と教訓を、是非活かしてもらいと思っています。

1960年5月22日夕刻、チリ南部で発生した最大級の地震がありましたが、この地震は大規模な津波を発生させました。途中ハワイでも沿岸で多数の被害を発生しながら、チリ沿岸を出た22時間後には、最大6mの波となって地球の裏側に当たる日本の三陸沿岸に達し、大きな被害を出しました。このチリ地震津波を契機として、我が国は海外で発生した地震による津波に対する警報システムを作り上げました。それが、世界でも有名な自然災害予防システムです。このノウハウに基づき、我が国は2004年12月のインド洋地震津波の後、多くのアジア諸国に対し津波早期警報システムの構築について協力したという実績があります。

私自身、自然災害予防は行政官、及び国会議員として、長年にわたって携わってきた重要な課題です。今般、IDBが持続的な成長のための自然災害に対する対策の必要性を認識し、自然災害予防ファンドを立ち上げたことは、我が意を得た思いであります。我が国は、今回のIDBによる自然災害予防に対するイニシアティブの一助となるよう、今後3年間で最大500万ドルの貢献をすると共に、自然災害予防のために築いてきたノウハウも提供したいという趣旨の演説を行いました。会場の皆様方からは万雷の拍手を頂き、日本のプレゼンスを大きく示すことができたと感じました。

また関係各国からは、債務救済に対して強い要望がありました。日本という、遠い国ではあるけれども力のある国から援助を頂きたい――、先程の拍手にはそのような気持ちも幾分込められていたのではないかと思っています。特別業務基金(FSO)の債務削減は、大変微妙な問題であり、更なる十分な議論が必要です。アジアでは、「借りたものは返す」という考え方が強いのですが、他方、重債務に苦しんでいる国を助けるということも非常に重要な課題です。この会合には、ボリビア、ニカラグアの大統領や、各国の大蔵大臣職の方々が多数参加しておられました。今後、我が国とこれら諸外国との関係がより緊密になり、日本の様々なノウハウを提供できれば、非常に幸せなことです。



ブラジルでの年次総会出席を終え、私はニューヨークへと向かいました。ニューヨークではワイル・シティグループ会長やガイトナー・ニューヨーク(NY)連銀総裁、キニー・ニューヨーク(NY)証券取引所グループ社長といった素晴らしい方々との面会の機会を得ることができたので、その内容を次にご紹介したいと思います。

1:ワイル・シティグループ会長との面会

 4/4午前11時より約1時間、シティバンク本部を尋ね、サンフォード・ワイル会長と面会しました。私は、彼が最近自伝を出版したことを知っていたので、彼の歩んできた道を含め、様々な経験を伺いたいと面会を申し込んだところ、快く引き受けてくれた。彼は小泉首相と2人で写った写真を私に見せ、「小泉氏は日本を開放した。よろしくお伝え下さい。」と非常ににこやかな様子でした。

私はまず始めに、米国経済の今後について伺った。彼は、「米国経済は堅調である。経済成長率は順調に推移し、インフレは低水準に抑制されており、企業業績も好調である。FRB(連邦準備銀行)フェデラルファンド(FF)レートの引き上げももうすぐ終了すると見込まれており、個人消費は依然として力強い。」と話した。現在FFレートは4.75%、市場ではあと0.25%の引き上げは見込まれている状況を考えると、彼の意見もよく分かるところです(※5月末現在では既に5.0%)。

私は、米国の過去十年以上に渡る長期の好況の理由は、IT産業の隆盛と住宅市場の好況の二本柱ではないかと考えてきたが、今後の米国の住宅市場がどのような動向を示すかを伺ったところ、「確かに、短期金利は引き上げられてきたが、モーゲージ金利は長期金利、一般的には10年物米国債金利に連動している。現在のところ、長期金利は低水準に留まっており、住宅市場に悪影響を与える状況にはない。また、多くの消費者はローンの返済も行っていることから、家計債務残高の増加率はあまり高くなく、消費を抑制するという状態にはない。」とのことであった。

また、シティバンクのグローバルな事業展開について伺ったところ、彼は「日本の金融機関は回復しつつあり、金融市場も成長を遂げており、今後も有望と見ている。シティグループも、1998年に日興證券と提携を行ったが、極めてうまくいっている。プライベートバンク部門に関しては、規制当局の指導に適切に対応できず大きな迷惑を掛けたが、そうした反省を十分踏まえ、日本でのビジネスを推進していきたい。シティバンクとしては、日本の銀行のATMの利用時間が限られた状況が続く方がありがたいよ。」などとジョークを交えて笑っていた(※シティバンクのATMは24時間作動)。

次に、ワイル会長は近々退任されると伺っていたため、退任後はどのような活動に従事される予定かを聞いてみた。彼は「私は1971年にブローカー会社の会長になってから、その職を35年間務めてきた。そのため今後は、まずは妻と一緒に過ごす時間を大切にしたい。また、大きな幸運に恵まれ財産を蓄えることができたが、この財産を様々な社会貢献活動のために残さず使い切りたい。加えて、各国のビジネス・リーダーのネットワーク形成の場を提供し、異文化間の相互理解を促進する役割をも果したいと考えている。」と話した。

この発言を聞き、私は考えた。米国の成功者は皆、一定の年齢に達し蓄財を終えると、最後の仕事として社会貢献活動に必ず携わる。更には、余力を持ってビジネスリーダーの育成に当たるなど、文化的活動も行っている。これは一つの成功者のパターンなのだと思う。財界人についても同様で、例えばカーター元大統領の多彩な活動などはその象徴とも言えるものだろう。

最後に日本の将来について、また今の日本の若いリーダーに向けてコメントを頂きたい、また日本にも来て頂きたいとお願いしたところ、彼は「私も是非そうしたいと考えている。日本は、小泉総理のリーダーシップの下で構造改革を推進されてきたが、今後もこの改革路線が継続されることを願っている。」と言ってくれた。


2:ガイトナー・ニューヨーク(NY)連銀総裁との会談

 4/4午後3時から30分ほど、ティモシー・ガイトナーNY連銀総裁に面会した。総裁はかつて東京で勤務された経験もあり、私を含め、財務省幹部との面識も相当深い人物であったため、極めて話しやすかった。ガイトナー氏に米国経済の今後の動向を聞いてみたところ、彼は「米国経済は依然堅調と思う。潜在成長率は3.3〜3.5%程であり、民間の意見も多少減速傾向かもしれないが、引き続き堅調ということで意見が一致している。消費も民間投資も堅調であると思う。しかし他方、数々のリスクもある。一つは中東地域の不測の事態などのショックによるエネルギー価格の上昇の可能性がある。現実に、代表的な原油価格の指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が現在70ドルを超していることを考えると、この可能性は極めて高いと言わざるを得ない。また、住宅市場の動向により消費が減少する可能性がないわけではない。賃金の上昇や労働市場の圧迫によるインフレの可能性、これもありうる。これまでは、リスクプレミアムやボラティリティが低かったけれども、大きな国際収支赤字の中での金融市場の動揺の可能性も否定できないということであった。」と話した。

私は、日本経済の現状について「日本は、2005年度成長率は2.7%、2006年度は名目2.0%、実質1.9%と見込んでいる。株価も個人的には更に上がると思っており、経済状況は良いと考えている。」と述べた。また、「日中関係については、外交的にはうまくいっていない面もあるが、人民元の日本に与える影響は、今のところ殆どない。人民元についてアメリカはどう見ているのか。」と聞いたところ、「中国は、国内の政治的制約の中で、何ができるのかを考えているのであろうし、漸進的に進めていくのも一つのやり方だとは思うが、彼らが何をしたいのかは、実はよく分からない。米国国内の政治的圧力が強くなっているのは事実だが、行政府はそれにうまく対応することができると思う。ただし、米国の景気が悪化し始めると対応がより難しくなるかもしれない。」とのことであった。これに対して私は、「米国でも日本でも、景気が良い時にやるべき改革をやっておいた方が良い。日本は、不良債権が8.4%から2.4%まで減少し、銀行は復活している。もう一つの日本経済好調の源泉は中国の購買力であり、そういう意味では中国が実力をつけていくのは良いのだが、強くなりすぎるのも少々困るのだ。」という話を最後に面会を終えた。


その3:キニー・ニューヨーク証券取引所(NYSE)グループ社長兼COOとの面会

 4/5午前11時から約40分間、キャサリン・キニーNYSEグループ社長兼COOに面会した。NYSEは大変有名なところであり、私も一度訪問したいと考えており、かつて留学していた頃も思っていたが果たせず、今回初めてこの訪問が叶い、非常に緊張した瞬間を経験した。特に場立ち(立会い)が未だに行われており、既に日本では見られない光景であるが、私の強い希望も伝え、見学させて頂いた。

キニー社長によると「NYSEでは、市場の活性化のためにはハイテクと人間の判断の双方共重要であると考えており、立会い場は今後も存続させていきたいと考えている。約2600の銘柄を扱っているが、そのうち最も活発に取引される250銘柄についてはオンラインで、その他は顧客のニーズに応じてオンラインと立会い場の双方で取引を行っていく方針である。」ということであった。

ナスダックとの関係を聞いてみたところ、「ナスダックとは企業の上場に際して、またその上場株式の取引に際しての二つの局面でお互い競合している。ニューヨーク証券取引所には最も優良な企業2600社を上場しており、加えて今回のアーキペラゴとの合併により、新興・中小企業の上場も可能となったことから、ナスダックに対しては我々のほうが優位に立っていると思う」と話された。

私が「日本の投資環境は大きく変わりつつある。個人金融資産における株式の割合は徐々に高まりつつあるほか、外資導入の促進の結果、米国から日本への対外直接投資も大幅に増加している。郵便局や年金基金が保有する巨額の資金が、株式市場に流入する可能性がある。ただし、投資にはリターンと共にリスクが伴う。国民の将来の生活に必要な資金(年金)が過大なリスクにさらされないよう、リスクとリターンの適切なバランスが重要であり、その点をカリフォルニア年金基金などをもつ米国の経験に学びたい。」という意見をのべたところ、キニー社長は「日本を含め、グローバルな投資機会は増えている。米国の機関投資家も個人投資家も、外国株式に向かいつつある。その結果、最近の日本の株式市場の上昇とその中に占める外人買いの多さが指摘されるところである。竹本副大臣のご指摘はそれぞれもっともであり、特に取引所の信認については私も非常に重要と考えている。このためにも、技術や規制その他の面で、東証との良好な関係を更に深めていきたい。」と言われた。

そこで私は、6月中旬に東京で開催されるアジア版ダボス会議について、是非米国からも多くのの方々にご参加頂きたいとお願いしたところ、キニー社長は「今年のダボス会議には、竹中大臣とセインCEOが参加したが、竹中大臣が日本経済や経済政策の効果について、非常に分かりやすく説明されていたと聞いている。飛行機とヘリコプターを乗り継いでの大変な強行軍で参加されたようですね。」と笑って話してくれた。

更に、将来郵便局が上場を検討する場合には、是非ニューヨーク証券取引所も候補に入れて頂きたい、などという話もあった。米国経済・社会も高齢化が進んでおり、退職後の生活資金の確保という観点からも、社会保障制度の改革と株式市場の活用について、政府や立法府の認識を高めるよう務めているところであり、諸外国との協力も重要だと考えているとのことであった。

私は社会保障制度の改革について、各国の協調が重要と言うことには全く同意見であることを述べ、小泉総理はブッシュ大統領と非常に良好な関係を築いたが、同じような対等かつ良好な関係をNYSE―東証間だけでなく、経済・文化面においても構築していくべきであるという意見を述べた。それに対しキニー社長は「是非小泉総理が在任中に機会を捕らえてここにお越し頂き、クロージングベルを鳴らして頂くよう期待しています。」との発言を頂き、面会を終了した(※小泉総理は6月末訪米予定)。




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