大臣政務官会議において年金制度改革案について説明(2004.4.13)

 平成16年1月から始まった通常国会において年金制度改正法案が審議され、国民的な関心を集めています。しかし、年金制度の複雑さも手伝って、制度改革の内容について十分に理解されているとはいえない面もあります。そこで、年金制度を預かる厚生労働大臣政務官として、複雑な年金制度改革案をできるだけ分かりやすく解説します。

1.年金制度の意義と改正の背景
 まず、年金制度改革案について議論する上で、年金制度の成り立ち(歴史)、現在の年金制度が私たちの生活に果たしている役割、そして、今、なぜ改革が必要となっているのかを理解しなければなりません。

 老後の備えをするということは、たとえば今働き始めた20歳の若者から見れば、自分が退職する約40〜45年先から、自分が寿命を全うするまで(平均寿命までと考えても約60〜70年先)の遠い将来の生活設計をすることを意味します。こうした長い期間を生きていく中では、インフレや失業などの経済変動もあることを考えれば、遠い将来の老後の備えを、貯蓄など個人の努力のみでは対応することは、非常に難しいことです。このように個人で対応が難しい老後に備えるため、我が国では、社会全体で「世代を超えて老後の備えをするインフラ」として年金制度を整備しています。

 年金制度は、昭和17年に工場等の男子労働者を対象とする労働者保険法として発足しました。その後、昭和19年には名称を厚生年金保険法と改めるとともに、対象範囲を、ホワイトカラーや女性労働者にも拡大されました。昭和36年には、サラリーマンを対象とした厚生年金や、公務員を対象とした共済年金の対象とならない、自営業者や農林漁業従事者などを対象とする国民年金制度を創設し、「国民皆年金」が実現することになりました。以来、公的年金制度は年々充実が図られ、現在では、現役世代7000万人の保険料と、国庫負担(税財源)、積立金の運用収入をもとに、高齢者3000万人に対する年金、約40兆円を支給する成熟した制度となっています。

 年金制度の財源は、@現役世代の保険料、A税金を財源とする国庫負担、B現在約150兆円ある年金積立金とその運用益の三つのみです。しかし、世界的にみても急激な我が国の少子高齢化の進行と経済情勢の変化により、年金給付に必要な保険料を負担する現役世代の負担能力が低下すると見込まれています。将来にわたって年金制度を持続させ、老後の備えを確保し続けるためには、給付と負担のバランスを図ることが、急務の課題となっています。これは、国民年金、厚生年金、共済年金と分立した年金制度の一元化を図ったとしても避けられない課題です。

 給付と負担のバランスの見直しを今行わなければ、その分、子供や孫の世代に負担を先送りすることになることを考えれば、改革待ったなしの状態であるといえるでしょう。


2.年金制度改革のポイント 
 現在の年金制度の課題は大きくまとめると3つあると考えています。まず一つ目の課題は、給付と負担のバランスの見直しです。少子高齢化が進む中で、年金制度の給付と負担のバランスを将来に向けて見直して行かなければなりませんし、さらに給付と負担のバランスの見直しを行う際には、「将来の給付が際限なく減るのではないか」、「負担が今後も増え続けるのではないか」という不安を与えないようにしなければなりません。

 第二点目の課題は、年金不信の払拭です。グリーンピアに代表される年金福祉施設を保険料を使って建設したことや、年金の未納者・未加入者が増加していることなどが、年金制度に対する不信感を生んでいると指摘されていますが、制度を将来にわたって維持していく上では、こうした年金制度に対する不信感を払拭するよう、常に努力しなければなりません。

 第三点目の課題は、年金制度を時代の変化にあわせて新しくすることです。女性や高齢者の労働市場での活躍が盛んな現代では、年金制度もそうした働き方や生き方に対応した制度としていくことが必要です。

ポイント1:「5年ごとの改正」ではなく「おおむね100年間を見通した給付と負担の姿を明示

 まず第1のポイントは、年金制度の根幹である「給付と負担のあり方」についての見直しです。特筆すべき点は、これまでの改正のように5年ごとにその時点の給付と負担の姿のみを定めるのではなく、おおむね100年間を見通した給付と負担の姿を明示したところにあります。

 まず、財源の一つである保険料については、見直しをしなければ、厚生年金であれば、現在13.58%の保険料が、25.9%にまで上昇する見込みです。しかし、今回の改正案では、これを極力抑制しながら毎年、0.354%ずつ、平成29年度に18.3%にまで引き上げて固定します。国民年金の場合は、見直しをしなければ、現在毎月13,300円の保険料が平成29年度には29,500円となる見込みですが、今回の改正案では、これも極力抑制しながら、毎年280円ずつ、平成29年度には16,900円へと引き上げて固定します。こうした将来の保険料はすべて法律に明記しています。

 もう一つの財源である国庫負担についても、現在、基礎年金給付費の3分の1の割合で投入していますが、これを平成21年度までに2分の1に引き上げる予定としています。

 また、現在約150兆円ある年金積立金については、2050以降の少子高齢化が最も厳しい時期の将来世代の年金給付のために活用し、現在給付費の約5〜6年分ある積立金を約1年分に縮小します。

 以上のように、保険料、国庫負担、積立金という三つの年金財源のあり方をきちんと整理しますが、さらに給付水準についても、働く世代が支えることができる程度に調整することにします。具体的には、これまで年金給付の水準は、現役世代の一人当たりの賃金の伸びにあわせて増額してきましたが、少子高齢化が進むと見込まれる将来には、現役世代の人口の減少や年金受給者の平均余命の伸びなども加味して給付額の伸びを調整する仕組み(マクロ経済スライド)を導入することにしました。

 このように給付と負担のバランスを見直すことにより、標準的な年金受給世帯では、現役の平均収入の50%を上回る給付水準を確保できるようにしています。

ポイント2:制度に対する信頼感を高める取組み

 改正点の2つ目は、年金制度に対する信頼感を高めるための取組みです。いわゆる年金福祉施設といわれるものは、昭和30年代から50年代にかけて、年金積立金を給付に使うだけではなく、保険料を納めている現役世代にも福祉還元すべきとの審議会の意見や国会での付帯決議があり、それを踏まえて、今日に至るまで約3.6兆円を投じて建設されてきました。これらの施設は実際多くの国民に利用され国民に役立ってきました。しかし、時代の変化とともに各種民間のリゾート施設も多く建設されてきたこともあり、年金保険料を年金給付以外に活用することの是非について疑問の声も出てきていることも否定できません。こうした声を十分に受け止め、グリーンピアや年金住宅融資は平成17年度までに廃止することといたしました。また、現在265箇所ある年金福祉施設についても例外なく整理し、運営委託をしている公益法人についても見直しを行うこととしています。

 自営業者などが加入する国民年金については、保険料の納付率が平成14年度には62.8%にまで低下し、空洞化が進んでいると指摘されています(未納・未加入問題)。年金保険料を支払うことは国民の義務ですが、これを払わない人が多数にのぼれば、真面目に保険料を払っている人にとっても年金制度に対する信頼感が揺らぎかねません。そこで、今回の制度改正や実務面での取組みにより保険料の収納対策を徹底することとしています。

 払えるのに払わない人への対応としては、従来から行っている納付督励の強化のほか、今年からは強制徴収にも積極的に取り組んでいます。

 また、低所得者に対する保険料免除制度を現在の2段階から4段階へときめ細やかにし、支払能力に応じて保険料を納めやすい仕組みへと見直します。

 さらに、現在は将来の年金額は55歳になるまで分かりませんが、20代や30代の若いころでも年金額の見込みといった情報を分かりやすく提供できるような仕組みを導入します。

ポイント3:生き方、働き方の多様化への対応

 改正の三点目として、国民の生き方、働き方の多様化に対応して年金制度自身も変化させるような改正を行います。

 まず、主婦の年金については、月額約6万6千円の基礎年金はもらえるものの、報酬比例の厚生年金については、あくまでも夫名義の年金となっています。しかし、専業主婦も夫の働きへ貢献していることを考慮し、離婚した場合は夫の厚生年金の二分の一の範囲内で分割することを可能とします。

 また、年金制度はもとより、日本という国が将来ともに豊かであるためには、次世代を育てることが必要です。これまでも子供が1歳になるまでの育児休業中は、将来の年金額を保証しながら保険料を免除していますが、この取り扱いを子供が3歳になるまでに拡充します。

 さらに、近年は高齢者も貴重な労働力として活用されていますが、これまでは60歳台前半の方については、会社に雇用されると一律に年金が2割支給停止されるなどの取り扱いがあり、就業を抑制するという指摘もあったことを踏まえ、こうした取り扱いを廃止することにします。

 また、障害者については、これまで障害年金か老齢年金のいずれかの選択制でしたが、障害者の社会参加を進める観点からも、働いて保険料を納めた場合は、障害年金に上乗せして年金を受けることを可能とします。

 最後に、現在、パートタイム労働者は、通常の労働時間の4分の3未満の労働時間であれば厚生年金の適用対象となっていませんが、こうした仕組みが、保険料を払わないですむように、就業時間を調整するなどの就業抑制を助長しているといった問題もありました。この点は、労働市場の多くを占めるパートタイマーや雇用主にも大きな影響を与える問題であるため、法施行後5年を目途として検討を進めることにしています。





戻る